ユーロコプター記者会見
南アの航空ショーAAD2010でデモ飛行を行ったEC145
先週ユーロコプター本社のルッツ・ベルトリンク社長が来日し、記者会見がありました。その記者会見に参加してきました。
ユーロコプターは防衛を除くヘリ市場では約55パーセントのシェア(川重との共同開発のBK117含む)を確保しています。
ぼくは「これ以上日本の非防衛部門でのシェア拡大は難しい。今後防衛部門でのシェア拡大を目指すのではないか、神戸に建設が予定されている整備工場はそのための布石ではないか」と質問しました。
これに対してベルトリンク社長は非軍事部門でシェア7割を確保するのは現実的ではないと発言、防衛省市場でのシェア拡大を示唆しました。
ルッツ・ベルトリンク社長
同社日本支社長のステファン・ジヌー氏は自衛隊からの発注があれば新整備工場(現在神戸空港でほぼ決定)の更なる拡大をもって整備体制を整えると発言しました。
同社はこの新工場では研究開発、整備・修理、オーバーホール、テクニカルサポート、訓練、部品供給などを充実させるとしています。場所は現状神戸空港でほぼ決定で、従業員は今後5年間で現在の150名から100名増員を予定し、25機分の機体整備能力を確保するとしています。
またユーロコプターの関係者は自衛隊機に関しては日本国内での生産も視野に入れているとしています。となればMCH101やAH-64Dなどの「ライセンス生産」とほぼ同じコンディションとなります。
そもそもこれら単なるアッセンブリー生産をライセンス生産と称するのは羊頭狗肉です。
これまで防衛省・自衛隊は輸入ヘリは充分なサポートを受けられない。だからライセンス国産だとしてきました。結果として原産国の何倍も高いライセンス生産が許容されてきました。
以前から何度も書いていますが、海外メーカーがユーロコプターの様に整備工場を持てばライセンス生産の大義名分は失われます。
にも関わらず日本のメーカーには危機意識が足りないように思えます。
あいもかわらず、割高なライセンス生産が今後も続くような前提の商売を考えているようです。自らリスクを取って自衛隊は勿論、民間市場での商売を拡大しようという意欲が見えません。
川重は現在BK117(EC145)の独自の近代化型を開発しているようですが、いつまでも60年代に開発したBKに頼っていていいのでしょうか。
しかも陸幕のUH-Xなど民間市場が期待できない極めて高価なUH-Xを開発しようとしています。どうせ経営資源を投入するならば民間市場で売れるものに投入すべきです。
ですが防衛省の売り上げは増大は期待できないのに、陸幕に付き合ってAH-64DやOH-1のような途中で調達が打ち切られる可能性の高いUH-Xの開発を進めようとしています。
欧州ではユーロコプターにしろ、アグスタ・ウエストランドにしろ、民間用ヘリで世界の市場を開拓し、その余勢をかって軍用ヘリの市場でもシャアを拡大してきました。結果として大きな雇用を生み、外貨を稼ぎ、税金を納めております。
軍用ヘリは輸出できなくても非軍事市場の開拓はできたはずです。ところが我が国のヘリメーカーは防衛省の需要に頼りきっており、単に税金を消費するだけです。このような会社を税金を使って3社も養っていくことにどれだけ国益があるのでしょうか。
単なる補助金のばらまきではないでしょうか。
ライセンス国産が必ずしも数倍の価格になるわけではありません。また輸入機といってもメーカー直の取引と国防総省経由のFMSではメンテやスペアパーツの値段や納期に関しても大きく異なります。ところが防衛省にはライセンス生産のコスト削減や輸入機の整備性の向上にたいする真剣な取り組みがいまひとつ感じられません。
ライセンス生産や輸入機の整備コスト低減をもっと真剣に考えるべきです。
現実問題として防衛省の装備調達費は縮小傾向です。これまでのような野放図な調達は不可能になりつつあります。防衛省、特に陸幕にはその認識が極めて薄いように思えます。
例えば今後作戦用装備に関しては日本国内での組み立て、整備工場を義務づけるとしてはどうでしょうか。これをオフセットの条件するのも手でしょう。
外国からの投資になりますし、雇用も生まれます。武器禁輸を緩和して第三国の装備、例えばシンガポールや韓国が採用した装備もその整備工場で整備できれば経済的なメリットはより多くなります。
因みにユーロコプターの親会社であるEADSの米法人、EADSノースアメリカでは米陸軍向けのUH-72Aラコタ(BK117ベース)を現地生産していますが、調達単価は約6億円です。日本やドイツで生産する何倍の値段になってるわけではありません。
日本のメーカーも結論先送りではなく、生き残りを戦略を本気で考えないとジリ貧となり、そして商売をたたむ羽目になると思います。
メーカーの今の偉い人たちは長年「官営工場」気分で仕事をしてきましたから、自分たちの任期は大過なく過ごしたいのでしょう。ですから任期の間にに大きな決断をするのを嫌っているのでしょう。ですが、先送りをすればするほど体力は落ち、下請け企業も厳しくなってきます。また世界市場に打って出る力も削がれていきます。つまり、先おりすれべするほど改革の成功は難しくなります。
技術的には世界で十分に通用するポテンシャルを持っているだけに非常に残念です。
川重や三菱重工は防衛航空部門の責任者に、大胆な決断ができるお雇い外人をすえたほうがよろしいのではないでしょうか。
防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備 (中公新書ラクレ)
中央公論新社
清谷 信一
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この記事へのコメント
カネばかりかかっていかんですな。
にもかかわらず、防衛省もメーカー
も既得権益の確保に必死みたいだ。
頭を働かせばすぐ気付く話なのに、
悪習から抜け出すのは大変なのか。
いつも清谷先生の書いてらっしゃる
文を読むと「このままではダメなん
だ」と危機感を抱きます。
当事者の日本メーカーが目を覚ます切っ掛けになれば…
ですが従業員は現地採用なのでしょうか?
すくなくとも外国人ばかりだと有事の信頼性が…
ねがわくばEC社に頼る事にならない日本企業としての誇りを取り戻してもらいたい
自治体と警察は旧ベル、消防、大手民間は旧シュド・アエロスパシエル、自衛隊は旧ベル、バートル。
中でも、送電線や山岳輸送といった限界ギリギリの使用ではアエロスパシエル系に絶対的な信頼度があるようです。
どんな悪条件が重なっても、カタログ通りの性能が出る事が現場の意見。
保険料や、再販価格が安定していて、コンサルと協定した定期交換サイクルで整備すると突発的な高額修理が殆ど発生しないため生涯コストが安い。
また、日本での輸入元が大手ユーザーの東邦の親会社の野崎産業であったことから、部品供給や整備情報の提供がユーザー視点にあった事、重整備を全日空系の整備会社に外注できた事も、稼働率の向上につながったようです。
因みに、東邦は長野オリンピックの時、河川敷の仮設工場で整備していたんです。
そう言えば、小学生の時の消防イベントで、京都市消防局のアルエートⅢが降下して来たのは印象に残っています。
70年代は、日本海に近い京都府北部や滋賀県、兵庫県中部へも出動していて、ほぼ毎日飛行していたんです。
ほぼ100パーセント日本人のはずです。
本当は自衛隊での整備の資格が民間で認められれば、経験者をこういうところで雇用することも容易になるのではと思います。
ユーザーによる色分け、面白いですね。
航空誌ではあまり、ヘリの記事がないのが残念です。固定機程人気がないらしいです。
アルエートIIIといえば、近年南ア国防軍からも退役しているようです。昔はあれに20ミリ機関砲を積んでガンシップに使用していたものですが・・・
機体を現地生産することは防衛
航空産業にとって大きな変化だ
と思います。
これが、業界再編によい流れ
になってくれることを願ってい
ます。
東邦が信頼されたのは、山岳救助の実績だけでなく、整備や営業、ディスパッチと言った運営が評価されたんだと思います。
東邦は、仏軍の最高クラスと云うか、インストラクターを教えるクラスに、毎年マネージャークラスが入校できたんです…これって、ヘリを買おうと出来ないんです。朝日は業界一だし、西武のいきさつでミルを使ったいきさつのアレコレもあったけど、自衛隊は、最後まで民間クラスでした。
海保は、見栄を捨てて、ベテランメカを東邦に丁稚奉公させてた実績から、民間仕様のナンバーで当時仏軍より最新のヘリを入手できたんです。
岐阜県防災ヘリ 若鮎号 ベル412(2009.9.11)
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海上保安庁ヘリコプター「あきづる」ベル 412(2010.8.18)