「政府広報紙」日経も「消費、猛暑でも動かず 7月消費支出0.2%減、食品値上げ重荷 高齢者の節約響く

 先日、防衛省の概算要求のレクチャーに行ってきたのですが、色々おもしろい話が。
 エンバーゴが掛かっているので、書けるのは月曜日以降になります。さて、今日の本題です。

消費、猛暑でも動かず
7月消費支出0.2%減、食品値上げ重荷 高齢者の節約響く
2015/8/29 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDC28H0G_Y5A820C1EA2000/

>個人消費の回復が鈍い。総務省が28日発表した7月の家計調査によると、1世帯あたりの実質消費支出は前年同月比0.2%減の28万471円だった。猛暑やボーナス支給という好条件が重なったにもかかわらず、2カ月連続の減少となった。食品の値上げなどを背景に、年金収入で暮らす高齢者らが支出を抑えた影響が大きい。

>賃上げよりも食料品値上げなどの影響が上回り、実質賃金がマイナス圏にあることが家計  の消費意欲をそいでいる。賃上げで勤労者世帯の収入は5.4%増と大きく伸びたものの、消 費支出は0.7%増にとどまる。

>年金収入で暮らす高齢者世帯は一段と支出を抑えている。平均年齢が70歳を超え、引退  世代が主体となる「無職世帯」をみると、7月は2.3%減った。気温が高すぎて外出を控える  動きもあり、猛暑でも飲料の支出は減った。パンや乳製品の購入も減らしており、勤労者世 帯と比べると節約志向が鮮明だ。



 いよいよ政府広報紙と揶揄される日経でもこういう政府、アベノミクスに不都合な記事がでるようになりました。もっとも最後にこんなコメントを紹介しておりますが。


>それでも市場では今後は消費が持ち直すとの見方が多い。雇用の改善で賃金が増え、消費を押し上げるというのが基本シナリオだ。大和総研の岡本佳佑エコノミストは「原油安で物価が下がっており、先行きは堅調に推移する」と予測する。

 見方が多いって、アンケートでも取ったのでしょうか。日経の願望ではないでしょうか。

 紹介しているコメントはプロ・アベノミクスの大和総研の人間のものです。
 でもオカシイですね、ここのチーフ債券ストラテジスト(日本語にすると債券「戦略」長ですかい、笑)も同じ主張をしておりますが、原油安が貢献ってアベノミクスと矛盾するんじゃありませんか?
 アベノミクスは物価が上がると消費者が先を争って消費を増やすから景気が良くなると主張しており、黒田日銀総裁も原油安だと物価が上がらないけしからんとばかりに追加緩和をしたわけです。日銀の追加緩和は間違いだったんでしょうか(ぼくはそう思いますが)。なんだか大和総研の主張はオカシイような気がするのですが、気のせいでしょうか。
 
 アベノミクスは40年ぐらい前なら有効な政策だったでしょう。ですが、現在の経済環境では効果は見込めません。

 以前から繰り返し申し上げておりますが、GDPの6割は個人消費です。これの食品、雑貨、衣料など多くの消費財は輸入です。スマホや、日本企業が海外で生産する電気製品なども輸入品です。安倍政権直前からみればドル円のレートは約1・5倍にあがっております。
 当然製品価格があがり、コスト上昇を消費者に転嫁できない輸入、卸・流通、小売業では利益が圧迫されます。

 当然消費者、特に年金生活者は消費を絞ります。100円のチョコが150円になったら2つ買おうという奇特な消費者は少ないでしょう。
 そして、消費者の多くは数の上では企業の99パーセントを占める中小零細企業の社員やその家族です。また個人消費の携わる輸入、卸、小売業もまた中小企業が多く、円安はこれらの企業にとってはコストアップであり、消費が冷え込めば給料アップどころではありません。

 対して輸出はGDPの15パーセント程度です。そして輸出企業の多くは海外に進出しており、国内生産はさほど多くはない。ですから円安になっても輸出はさほど伸びない。実際にこれだけ大幅の円安になってもさほど輸出は増えておりません。
 それでもトヨタなどは大儲けしておりますが、従業員や下請けに円安利益を還元しておりません。しかも昨年は下請けに値上げを許すのではなく、値下げを要求してやらない(だからありがたく思え)、今年はまた値下げしろ、です。ところが円安で材料燃料は上がっているわけです。まるでカムイ外伝の悪代官です。
 株価が上がっていると言っても多くは外人投資家であり、国内の個人投資家は少数です。日本人は米国人と違って資産のポートフォリオで株式をあまり持っておりません。それにもっているとしても、例えば1千万円を超える株式をもっているようなサラリーマンがどれほどいるでしょうか。
 つまり、いわゆるトリクルダウンは大して期待ができなかった。

 本来物価が上がって景気が良くなるのは、需要が伸びて、商品が品薄になる、商売が儲かって人で不足になって給料が上がるということ起こって、物価が上がった時に起こる事象です。

 物価が上がれば景気が良くなるわけじゃありません。単に物価高、円安を誘導するなら上海や釜山に海自の護衛艦が砲弾を何発が打ち込むのが一番簡単です。
 常識ある人間ならば物価が上がれば、景気が良くなるなどというカルト宗教のドグマみたいなものを信用しないでしょう。

 アベノミクスで個人消費やGDPがどうなっているかは現状が雄弁に物語っております。
 GDPを押し上げている要因は公共事業と、官需でしょう。補正予算や復興特会でじゃぶじゃぶ国の借金を増やしております。
 ところが、補正で自衛隊の装甲車やヘリを買っても乗数効果が低いわけで、消費や設備投資の刺激にはほとんど貢献しません。ただ国の借金が増えていくだけです。
 
 恐らく安倍政権は今年度末に景気と支持率の浮揚を狙って、大幅に補正予算によるバラマキを増やすでしょう。でもやるだけ無駄、国の借金を増やすだけで終わるでしょう。

 さて、アベノミクスはどうなるのでしょうか。来年辺りアベノミクス礼賛してきた人たちがどういうお話をなさるのか今から大変楽しみであります。


東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。

次期ヘリに富士重工を選定したのは間違いだ
やはり世界市場の動向を見ていない
http://toyokeizai.net/articles/-/80320

自衛隊は、やはり「隊員の命」を軽視している
戦闘を想定した準備はできていない<上>
http://toyokeizai.net/articles/-/78310

現行の救急キットでは多くの自衛隊員が死ぬ
戦闘を想定した準備はできていない<下>
http://toyokeizai.net/articles/-/78336

この記事へのコメント

ひゃっはー
2015年08月29日 20:39
徳川宗春の経済政策って、現代の用語で表現するとトリクルダウンですよね。まあ、単なるバラマキとトリクルダウンの線引きが難しいと思うのですが。
八王子の白豚
2015年08月29日 23:44
現在の日本が陥っている状況は過去に学ぶことが難しく、既存の考え方では効果があるか疑わしいのは何となく分かります。
とはいえ、何かやらないとゆっくり沈んでいくのであれば足掻くべきだとは思います。
しかし、アベノミクスは今のところ株をやってる人ぐらいしか恩恵を得ていないように思えます。
しかも株で儲けた人たちが派手にお金を使って社会に還元しているわけでもないし・・・
これではトリクルダウンなんか期待できないですね。
マリンロイヤル
2015年08月30日 09:22
アベノミクスは、金融緩和と財政出動で経済の下支えをしてる間に成長分野を見つけて伸ばす、というモノだったのに、先に消費税を増税して経済を失速させてしまいました。しかも、今年は財政出動も縮小させましたから、マイナス成長は確定です。消費税を下げるべきでしょうが、自民党では出来ないでしょう。補正予算を造って財政出動するんじゃないですか。
張子の虎にウンザリ
2015年08月30日 14:07
失速はもうどんな手を打っても回復しないでしょう。
やったら終わり。
それが消費増税。
何回繰り返したら理解できるんでしょうかね?

円安と増税などで輸入品は一気に値上がり。
長らく収集癖がありましたが、おかげでキッパリ止められました。
肥満予防を考えて、一日二食にして食費も抑えるように。
今は毎月ドンドン増える貯金残高にホクホクです。
将来は年金受給開始は70歳からになるでしょうが、
とてもそんな年齢まで働けません。
今の65歳でもキツい。
政治家の先生や官僚の皆さんは余裕なんでしょうが、
普通の仕事はそんな高齢になったら、思うようにはこなせません。
私は金を貯めて60歳でリタイヤします。
総理が確約した次の増税ももうすぐですし、
老後までにあと何回増税あるかと予想すると恐ろしい。
いろいろと日本の将来が怪しくなったおかげで、
今を抑えて老後を重視する決断できました。
アベノミクスありがとう。
ブロガー(志望)
2015年08月30日 14:59
お邪魔します。
 地震や台風や火山は人間がどうこうできる代物で無い事は「感覚的に」理解できます。一方経済は「人間の営み」なので、あたかも人間が思う通りにできるように思ってしまいます。実際は「人間の営み」であってもそれ自体の「法則」を持ち、必ずしも人間の思う通りにはなりませんが(なるのなら旧ソ連は潰れなかった)。「経済を何とか(良く)しろ」との「大合唱」があり、政治家はそれに応えて「何か」をしないと(しているふりでも)自らの地位が危ういので、「何か」(実際には無意味、それどころか悪影響でも)をするのではないかと思われます。
ブロガー(志望)
2015年08月30日 15:02
続きです。

 思うのですが今「実際の付加・効用価値」はどれだけ生み出されているのでしょうか。実際に生み出される「付加・効用価値」では人々の欲するそれを満たせないので、「自らがより多くを得るために他者から奪う」事が繰り返されているのが今の現状ではないかと思ったりします。「付加・効用価値が生み出されているのではなく奪い合っている」状態ではトリクルダウンなんか起こりっこないでしょう。ホッブスは『リヴァイアサン』で「限られた富を奪い合えば『万人の万人への闘争』は避けられない。故に強大な権力が必要である」と述べました。今の世界では世界レベルでの「強大な権力」は存在し得ないので(アメリカでも全然足りない)、「万人の万人への闘争」は避けられないのではないかと思われます。そうなったら日本は真っ先に「食い殺されて」お終いかも。
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2015年09月05日 19:40
消費増税の影響なんぞ、ほぼ全く有りませんよ。
そう錯覚している意見は一部の識者も主張していますが、それは現実のデータを全く無視しているからです。
2014年10-12月期、2015年1-3月期で既に名目GDPでは消費増税前の駆込み需要のあった2014年1-3月期を超えていて、実質でもトントンなのですから、GDPの成長自体は順調であって、消費増税の影響を見出す事は不可能です。既に回復後なのですから、2015年4-6月期や7月のマイナスが消費増税と関係など、当然有るわけないですね。
原発停止による燃料費増が3兆円で消費の1%、しかも消費税と違って外国に貢ぐのみ、さらに健康保険、年金の料率の引き上げが数%、円安の国内物価への影響がざっくり8%から10%で、これだけでも15%くらいの影響があるでしょうか。この中で3%の消費増税の影響に致命的重要性があると言う意見は、余りにも事実を無視した非論理的見解でしょう。
2015年4-6月期のGDPは前年同期比に比べると、名目も実質も大幅に伸びています。前期比(2015年1-3月期)と比べても、季節調整前の名目で比べると殆ど遜色ありません。季節調整すると大きくマイナスになるのはリーマンショック前後から続いている傾向で、これは米国でも同様の事象が見られるので、おそらく中国の経済成長の影響を統計に組み込む事に失敗しているのでしょう。春節で1-3月の中国の経済活動が活発になる影響が上手く統計に反映されていないのです。
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2015年09月05日 20:10
GDPをみると、2015年1-3月期は、前年同期比ではかなりプラスになっており、このプラスはほぼ輸出増/輸入減から来ています。前期比のマイナスは先に述べた様に、季節調整の統計上のテクニカルな問題が原因ですので、真に受けると馬鹿を見る類いのお話です。
雇用も非常に順調で、実質賃金の上昇、正社員比率の増大がみられますので、雇われ側の人間、特に若い人にとってはアベノミクスさまさまでしょう。
この意味で、アベノミクスは目先の目標は満たしており、データを見て評価するならば、成功と言わざるを得ません。成功失敗を問題にするのは的外れで、批判できるならば長期的に日本にとって良いか悪いかという観点からです。
元々日本は少子高齢化社会なので、個人消費は減るのみで、維持すらできません。例えば同じ70代と言っても10年前と比べれば70代後半の比率が増えているのだから、消費は落ちて当然なのです。消費増税も問題ではなく、逆に消費税減税したら後期高齢者の消費が大幅に伸びるのか、と言う話です。そんなわけはありませんね。
そこでアベノミクスが目指したのは、円安にして国内の実質賃金と購買力を下げ、その分の所得を輸出企業と新規の雇用、つまりは若者に移転するという政策です。長期的にはアジア圏の経済が大きくなり、相対的に日本の内需の重要性は小さくなるのだから、これからは輸出、またはアジアの観光客やビジネスマンが日本に来て使う金、インバウンド消費による成長を目指すと言うのも、一理あります。10年後には、中印東南アジア合わせて30億を超える人口と日本の5倍以上のGDPが確実視されるのですから、これにぶら下がる事も戦略としてはありでしょう。その場合、また別の深刻な問題が発生するかもしれませんが、その可能性も含め、視野を広げて行くべき問題です。

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