「狙撃への道」 その1


元東部方面混成団長で現役時代、普通科の技能向上に尽くされ、著作も多い二見龍氏と、陸自の狙撃の先駆者である、松岡勝樹氏による、狙撃に関する本です。
陸自で狙撃を如何に定着させるかの苦労と問題点が多く指摘されています。
元狙撃教官が語る 狙撃の道 - 松岡勝樹, 二見龍
元狙撃教官が語る 狙撃の道 - 松岡勝樹, 二見龍

P18
>2002年に、対人狙撃銃(M 24SWS)が、新たに導入されたのですが、その時点では狙撃銃に関する運用方法や教育方法は決まっておらず、また、実弾、空砲ともに輸入されていない状態でした。導入後1年が経過しても進捗がありませんでした。(P15)

つまり何の運用構想もなく、狙撃銃を買ってしまったわけです。

そしてもっと驚くことに陸自は狙撃の知識がほぼ皆無であり、部隊に動向するマークスマンと、狙撃手の違いすらも組織として認識していなかったことが書かれています。
松岡氏が誰に聞いても、

>「どこで狙撃の射撃と技能を学べないかと」と考え、複数の上司に相談したのですが、「知っている範囲だけでやればよい」との一点張り(P18)

そこで松岡氏は永田市郎氏を頼って自費で渡米して訓練を受けたわけです。
陸自が軍隊の常識を知らず、無責任であるいつもの話です。(P18)

>ようやく、2006年からM24を使っての「対人狙撃銃集合教育」が始まりましたが、射撃技術の教育・ 訓練が主体で、射撃をするまでの狙撃手の行動に関する教育は体験程度の簡略化されたものでした。(P28)
狙撃手は射撃するまでの行動が重要で、潜入、サバイバルなどの技術を学ぶ必要があることを申し上げましたが、残念ながら上司にそれを理解してもらうことができず、かえって反発を招いてしまいました。「狙撃手は刺激だけやれば良い」「教育は言われたことだけしろ」と言われました。(P28)


>直属の上司から、潜入などに関する訓練科目を設定する必要がないといわれました。P29,30)

M24の調達が始まって4年後からのスタート。しかも陸自の将校たちが、狙撃に関しても基礎的な知識もないことがここからわかります。つまり彼らは何の勉強もしていないし、
軍隊の基礎的な知識、常識すらもっていないということになります。
それは個人の問題ではなく、陸自の教育体系がいい加減、軍隊失格だといことです。


二見氏は陸自の教範が狙撃手は敵に見つからないように行動する」としか書いていないことを指摘しています。これに対して松岡氏は、

>訓練自体がどうしてもシナリオに沿って進行する隙のようになっているのが原因だと思います。敵に見つからないように「動作のたびに周囲の確認をする」「音を立てずにゆっくりと移動する」「常に前週を警戒する」等は、訓練するのには時間がかかるため、シナリオ形式の訓練では重視されず、ほとんど省略されてしまいます。


つまり陸自の訓練、演習は筋書きあるドラマであり、それを円滑に行うことが最も重要であり、実戦を想定した訓練は「不効率」だと考えている、ということです。
あれだけ米軍と共同訓練をしておいて、この体たらくです。共同訓練の意味はないのではないでしょうか。P125)

>陸上自衛隊の全国の普通科連隊は、それぞれの特徴と高い実力を持っていますがその絆は連帯だけに限定され、他部隊ではほとんど共有されることがありません。(P140 )

これも陸自の教育における問題です。二見氏も第40普通科連隊長時代に、民間の力をかりて、市街戦含めて実践的な訓練をとりいれて成果をだしましたが、次の連隊長はまったく興味がなくて、元に戻ってしまいました。
せっかく新たな取り組みをやっても組織全体が、事なかれ主義で、現状維持ですから、そのような試みの成果が、全部隊で共用されることがあまりない。

このような素人以下の見識と事なかれの演習だけを行う組織が有事に軍隊として戦えるとは期待できません。


東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
財務省が戦車の有益性を辛辣に指摘した真の意味
現実を直視した「真に有効な防衛力」の議論が必要だ
https://toyokeizai.net/articles/-/587274
apan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
 ゴム製履帯の可能性 前編
https://japan-indepth.jp/?p=66289
 ゴム製履帯の可能性 後編
https://japan-indepth.jp/?p=66297
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その1
https://japan-indepth.jp/?p=66121
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その2
https://japan-indepth.jp/?p=66134

この記事へのコメント

偽陸士
2022年05月09日 15:51
>これも陸自の教育における問題です。二見氏も第40普通科連隊長時代に、民間の力をかりて、市街戦含めて実践的な訓練をとりいれて成果をだしましたが、次の連隊長はまったく興味がなくて、元に戻ってしまいました。


なんて勿体ない!

折角戦える組織が出来たというのに、発展させるどころか自分で駄目な組織に戻ってしまうとは!

政治家や有権者が望んで無ければやらんで良いのなら、ハイブリッド戦を仕掛けられたらお仕舞いです。

日本人全体が決断出来ない内に、占領されます。
ミスターフリゲート
2022年05月09日 16:57
調達とかはときどき海自や空自もやらかすわけですが、陸自は問題だらけすぎませんかね?狙撃はとか基本だからそこはしっかりしてるだろうと思ってましたが、まさかこれとは。

偽陸士さん
なんかもう、アホらしいですが、陸自がこんなんなら、左翼の言うように外交努力だったり、中国に媚び売ったりする方がまだマシとすら思ってしまいます。
やれやれ
2022年05月09日 20:05
「日銀は政府の子会社」 自民・安倍氏
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050900963&g=pol
仮に心のなかで、本心でそう思っていたとしても絶対口に
出すべき事ではない。ましてや元総理がだ。
バカもここまでくると犯罪だ。
本当に日本を転覆させたいのか?
偽陸士
2022年05月09日 22:31
やれやれ様。

自民とその支持者達の頭の中身なんてそんなもんですよ。

追及されても『何が問題なの? 』 とキョトンとされるのがオチです。

また棄権者達もそれでも野党よりマシと考えるでしょう。

円の価値が暴落しなければ、社会を立て直そうとはしないでしょう。

個人毎にハイパーインフレーションに備えるしかありませんね。
やれやれ
2022年05月09日 23:49
防衛装備庁陸上装備研究所広報ビデオ(令和4年版)
https://www.youtube.com/watch?v=yCTda2MENYU
うわ~すごいな~さすがぼくたちのじえいたいはけんきゅうもすごいや~パパこれでにほんもあんしんだね(呆)
陸上装備研究所の一般公開時に同じ様な広報ビデオ(多分2019年度版)を見ました。後半はなんら変わって無く同じだと思います。
因みに優れた装備の開発だの省力化だのなんだの意味不明のことを言っていて頭が痛くなりました。
厚顔無恥とはこのことでしょうか。国民を騙すのも大概にして欲しいもんです。

ついでに
防衛装備庁艦艇装備研究所広報ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=2XBBaSGOYI0

因みに航空装備研究所の広報ビデオは無いようです。残念。


偽陸士さん、
「追及されても『何が問題なの? 』 とキョトンとされるのがオチです。」
ヤフコメも本当のことを言って何が悪いみたいな事を恥ずかしげもなく書いているのを見て同類とはこんなものかと呆れた次第。安倍が紙幣は狸の化かした葉っぱですよと言うのと同じだと分かってないようで頭が痛いです。
これで国債暴落や円安加速、株安になったらどうするつもりなのかと。
やれやれ
2022年05月10日 07:43
ウクライナ軍「ロシア軍のドローン300機以上撃破。もっと強力な武器の提供を」SNSで訴え
https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20220509-00295299
ご参考まで。
ロシア軍のドローンの活躍をあまり聞かないのはこの辺が原因でしょうか?
やれやれ
2022年05月11日 11:15
「つまり陸自の訓練、演習は筋書きあるドラマであり、それを円滑に行うことが最も重要であり、実戦を想定した訓練は「不効率」だと考えている、ということです。」
酷い話です。一時が万事この有様だから調達も訓練だけできれば性能が悪かろうが高かろうがそれっぽい玩具で十分と言う発想なのでしょう。
訓練のための訓練、しかも現代戦を想定していないでは実戦はロシアより酷い戦いになる事は疑いないし。
組織防衛には一生懸命でも国の防衛はなおざりですからね…
これを税金の無駄遣いと言わずして何と言えばいいなか。
二重燭台
2022年05月14日 00:35
旧帝国陸軍時代の狙撃兵のノウハウや技術は断絶してしまったのか…(困惑)
ひゃっはー
2022年05月14日 15:39
中央即応連隊では市街地の訓練を熱心にやっているので、大丈夫だろうと思いたい。

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