令和4年度財政制度分科会の防衛関連資料を読む その9
財務省では毎年財政制度分科会が開催されています。これは国の予算、決算および会計の制度に関する事項などを調査審議するものです。
その中に防衛に分科会があり、そこで使用される資料が毎年公表されています。意外に注目されていないのですが、防衛省では出さない資料や防衛省には都合の悪い指摘も含まれており、防衛に関しては貴重な資料となっています。これは「資料」と「参考資料」があり、今回から数度に渡って、この「資料」を解説していきます。
「資料」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseisk20220420/03.pdf
「参考資料」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseisk20220420/04.pdf
次期戦闘機の開発について(P24)

○ 次期戦闘機は2035年頃の運⽤開始を⽬標としているが、世界的に無⼈機が戦場に実装されていることを踏まえると、次期戦闘機の運⽤開始時には、より安価で、⼈的損失の無い無⼈機の実装が⼀層進んでいる可能性。
○ こうした中、彼我の勢⼒差、将来の戦い⽅、パイロット・整備⼠を含む限られた⼈的資源、無⼈機活⽤のメリットなどを⾒据え、具体的なスケジュール・コスト・開発の⽅向性について国⺠へ説明し、理解を得ることが必要ではないか。
※ その上で、戦闘機開発は⻑期間・⾼コストという事業特性を踏まえ、⽬下、どこまで⾏財政資源を振り分けるべきか等の議論も必要。
このページも近視眼的な軍オタ諸氏から反発を受けました。
財務省の狙いはキャデラック趣味の大型・豪華な戦闘機を志向しているが、それでいいのか、実現は可能なんですか?エビデンスを出しましょうねと言っているわけです。
>諸外国の無⼈機の活⽤状況



>彼我の物理的勢⼒の差を踏まえつつ、「将来」にわたって航空優勢を確保するため、新たな戦い⽅、それに応じた装備品の取得が求められる。
現代では戦闘機、攻撃機の任務が無人機に置き換わりつつあります。また戦闘機が、無人機を率いて戦う方向にも進みそうです。とはいえ、現代のテクノロジーで完全な無人化はまだ無理です。防衛省、空幕は現実の分析と将来の構想をしっかりしていますか?と、来ているわけです。
><戦闘機開発のコスト>
F-22(⽶)ステルス機
2005年より運⽤
量産機数: 約200機 開発費: 約2.3兆円
(約115億円/機)
量産単価: 約210億円 ※製造コスト増⼤等を受け、製造中⽌(⽶国では、配備機数減を検討中との報道あり)
F-22の調達コストは自衛隊のF-15Jや、F-2とさほど変わりません。ところ米国は価格が高騰しすぎたと、調達を大幅に削減しました。
日本政府、防衛省、空自、そしてメディアや納税者もこの我が国の異常な高価格に対してあまりにも鈍感なのではないでしょうか。
更に申せばF-22の維持は相当高いものがあります。これは多分調達コストよりも問題担っているかと思います。
F-35(⽶)ステルス機
2016年より運⽤
量産機数: 約3200機以上 開発費: 約6.1兆円(約18億円/機)量産単価: 約96億円
F-35は大量調達によって廉価を狙ったステルス戦闘機です。ところがそれでも高コストの戦闘機です。期待寿命はF15の半分、維持運用コストはF-15の二倍、さっくりライ不サイクルコストは4倍といっていいでしょう。
ですから米空軍ですら調達数を抑えて、F-15やF-16の近代化型の調達を決定したわけです。ステルス機はどうしてもそうなります。
そのF-35を150機近く調達する上に、更に高価な、恐らく調達単価&維持費がバカ高くなるであろう国産ステルス機ど導入していいのですか、というところです。
>次期戦闘機(⽇+⽶英︖)
2035年頃、運⽤開始予定量産機数: ︖
開発費: ︖兆円 (︖億円/機)量産単価: ︖億円 近年の開発経費等 R4:858億円 R3:576億円 R2:111億円
日本の問題はまずグランドデザインがないことです。
このような戦場想定で、このような戦略のもと、このような戦闘機が必要である。
必要機数は何機で、これを開発するにはいくらかかかり、いつまでに完成させ、量産は何年度から何年で何機製造して、何年度までに戦力化する。その維持はこの程度になる。総額はこの程度である。
更に申せば、現代の空戦はパッケージですから無人機、電子戦機や早期警戒機、空中給油機、新型ミサイルなどの開発、調達のプランも提示することが必要です。
ところがそんなことをしてはいません。防衛省も空幕も、自民党の国防部会も新しい国産ステルス戦闘機がほしいと騒いでいるだけです。
更に問題なのは防衛装備庁ではそのような運用構想、そして基礎研究を殆どしていません。装備庁の開発予算は殆ど技術実証と、装備化のための開発です。
更に申せばリージョナルジェット機すら商品化できなかった三菱重工にその実力があるのか、ということです。常識ある人間ならば大概疑うことでしょう。
テクにナショナリズムに浮かれて、出来もしない戦闘機を開発するのが国益になるでしょうか。
空幕、防衛省の秘密主義も問題です。F-2のレーダーに不具合があったわけですが空幕は「何の問題もない」と大本営発表を続けていました。その後に調達数を削減しました。F-2が駄目な戦闘機だったという証左です。
そのようなネガティブな情報を納税者に開示せず、官は誤りを犯さずという尊大な態度をが習いグセになっています。こういう組織の話が信用できるわけがないでしょう。
F-2開発時に我が国の官民がどの程度のレベルだったか分かる話があります。月刊軍事研究「航空自衛隊市技術幹部の生涯 支援戦闘機F-2開発の総括と教訓」(元防衛庁技術研究本部開発官(航空機担当)空将 松宮廉氏の手記です。
>FSXのレーダーは世界初のアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーということで、世間の注目を集めたのである。 だが、実情は機体関係の問題以上に深刻で、技術第2課長 をはじめ当時の航空幕僚監部技術部の担当者は、技術試験は終了しているということで、技術研究本部の予算的支援も得られず、問題の解決に大変な苦労を強いられたようで ある。
>そもそもFSXのレーダーの開発にあたっては、細かい運用上の要求は なされておら ず、「同時多目 標の捜索追尾が できること」が 要求されている 程度であった。 これは、わが国 にフィールド・ データが存在し なかったこと、 つまり例えば、 空戦で何機を相 て手にして、相手機がどの辺から攻撃してくるとか等の実戦データに基づく シナリオがなかったことが大きな理由であった。このシナ リオがないとソフトウェアは組めずに、漠然とした「多目 標処理」という要求にならざるを得ない。そのため、Ci 試験機 (FTB) に搭載して確認していたこともあって、 アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーの技術試験は合格とされてしまった。
>しかし、実際は探知距離が短く、追尾中に急激な機動を すると、ロック・オン(照準)が外れるといった、全く 「実用上は使いものにならない」というレベルであったよ うである。 製造会社の三菱電機も初めの頃は有効な手立て を積極的に講じることができず、後にOFP (Operational Flight Program) の改修等を行い、レーダーの性能機能の改 善を図ったようである。
>現在では、航空幕僚監部技術部の諸兄等の尽力によりF 2のレーダー問題は解決をみるとともに、F-2の空対空戦 闘能力の向上事業を通じて、アクティブ電波ホーミング方 式のAAM-4 (9式空対空誘導弾)を搭載するための機体 改修や、APGIからAPG-2レーダーへの換装作業が 続いていると聞いている。
>FS-Xの開発について総括すると、技術的には炭素繊維 強化複合材 (CFRP) の一体成型の主翼とアクティブ・ フェーズド・アレイ・レーダーの採用が目玉であった。し かし、この両者のトラブルで運用者側に迷惑をかけること になったのは、慚愧の念で一杯である。これからも言える ことは「生煮えの技術」を適用しようとすると、とんでも ない「火傷」を負うことになるということである。
> 幸いにしてFS-Xの統合電子戦システムには大きなトラブルが起こらなかったようであるが、CFRPで言えば、 すでに述べたとおりCi輸送機のグランド・スポイラー、 T-2高等練習機の脚扉や方向舵といった部分的な操縦装置 の複合材化くらいしか実績がないにもかかわらず、もっと も重要な主翼に適用したこと。
> アクティブ・フェーズド・ アレイ・レーダーに関しては、 十分なソフトウェアの実証 もできていないレーダーを装備したことなどは、大きな誤 りであったと思 う。
>また日米関 係全般に関して 言えば、空軍は 本来、遠隔敵地 を攻撃するため のものであり、 防空戦闘を中心 せざるを得ない航空自衛隊 は、米国から一流の空軍とは見なされていないのではないか。
>FSXの開発は、具体的事実はないものの、そうした悲哀 を感じさせられる開発であったと思う。
>平成4年10月 デイビス米第5空軍司令官が技術研究本部の筆者を訪問した。 FS-Xの開発を通じて、 航空自衛隊は米空軍から流空軍とは見なされていないという悲哀を感じさせられた。
ぼくがかつてFSX開発にいて空自は実戦データなく、米国にベトナム戦争のデータを頼んだら、朝鮮戦争のものしかくれなかったという、火器管制開発関係者の話を紹介したことがありますが、自衛隊大好きな軍ヲタさんたちは、そんなものは必要ない、開発はなかったと顔を真っ赤にして反論していましたが、この松宮空将の手記を読めばそれが事実とわかるはずです。
空自や軍オタさんたちが絶賛するF-2開発時でもこの体たらくです。この手記を読めば我が国の戦闘機開発能力がどの程度のもか、よく分かるでしょう。本気でやるならば、イスラエルあたりから実戦データを買ったりするでしょうが、そういうことをやりませんでした。
戦争などないのだ、なんとなくらしいものを作れば良い、それが防衛省、空幕、メーカーの思惑です。この環境は今に至っても変わっていません。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
財務省が戦車の有益性を辛辣に指摘した真の意味
現実を直視した「真に有効な防衛力」の議論が必要だ
https://toyokeizai.net/articles/-/587274
apan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
ゴム製履帯の可能性 前編
https://japan-indepth.jp/?p=66289
ゴム製履帯の可能性 後編
https://japan-indepth.jp/?p=66297
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その1
https://japan-indepth.jp/?p=66121
国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その2
https://japan-indepth.jp/?p=66134
この記事へのコメント
>F-15の二倍、さっくりライ不サイクルコストは4倍といっていいでしょう。
ライフサイクルコスト
コメントは以下
本邦ミリオタ界隈ではF-3が必ず完成するっという根拠なき自信に満ち溢れていて謎です。
世界一の戦闘機開発国である米国ですら開発失敗機に開発中断機を多数輩出しているのに。
日本が相乗りしているテンペスト計画でも、英国も兵器開発では散々失敗を繰り返していますので完成するのかどうか余談を許しません。
一飛行機好きとしましては、現在開発中の機体は全て成功して欲しいのですが、有人戦闘機開発メーカーは米1・欧州1・露1(かなり危うい)・中1・印1に淘汰されるのではないかと危惧しております。 (技術開発力+経済力)
しかし本当に無駄遣いや行きあたりばったりにはゲンナリしますし、不安でたまりません。
貧乏家族のお父さんが使い方の分からないサーバーシステム買ってきて「サーバーはPCよりすごいらしいよ、使い方はこれから考えよう」って言ってるようなもん、他にも軽自動車を600万で買うような事をしてみたり、調達の在り方が異常。
https://www.sankei.com/article/20220514-O7FEJWGHTFKXDCXYQDCFAIAOZU/
前から冗談半分でBAEやレオナルドに丸投げしる!と書いていたら、ホントになっちまった(((^_^;)。アレですかね。前に清谷さんが森本元防衛相が米側との共同開発を推しまくっているけど、装備庁はガン無視している、なんて事を書かれていましたけど、それも影響しているんですかね。だとしたら防衛省装備庁も、たまにはまともな判断が出来るんぢゃんw。
>DARPAとレイセオンは衛生兵のための人工知能医療MAGICを開発します
https://milirepo.sabatech.jp/darpa-and-raytheon-develop-artificial-intelligence-medical-magic-for-medics/
こんなのを陸自の衛生科の人間が欲しがったら、季節外れの人事異動で閑職に飛ばされるか、退職に追い込まれますよね( ノД`)…
https://grandfleet.info/japan-related/the-air-self-defense-forces-next-fighter-f-x-will-be-jointly-developed-by-the-uk-and-japan-aiming-for-a-formal-agreement-by-the-end-of-the-year/
KUさんも書いていますが少しは現実が見えてきたと言うことでしょうかね。好意的に見ておきましょう。
財務省の狙いはキャデラック趣味の大型・豪華な戦闘機を志向しているが、それでいいのか、実現は可能なんですか?エビデンスを出しましょうねと言っているわけです。」
まあ軍ヲタや酷使様は防衛省を防衛していますからね。
何でも諸手を挙げて賛成ですよ。防衛省もぼくがかんがえたさいきょうのせんとうきとやらが作れれば予算がどうなろうと単価がどうなろうと開発費が青天井だろうと気にしないのでしょうね。
そもそも開発できる下地も生産できる下地もありませんけど。
「F-22(⽶)ステルス機」
性能云々は無視して
コストだけで見ると
開発費4兆円(1機あたり400億円/機)
調達単価200億円(開発費、補修部品台含まず)以上
が妥当な所かと。
単純計算で1機400億円...
ライフサイクルコストは6~700億円でしょうか?
生産設備や基地の整備費用もブッコミで1機1千億円としたら100機で10兆円...(くらくら)。
意外なことにコロナ対策費16兆円より安い!お買い得ですよきっと(呆)。
「日本の問題はまずグランドデザインがないことです。」
どの様な状況でも万全の性能を発揮することができるマルチロールの完璧ステルス戦闘機でしょう。
構想も何も無くても何にでも使える(呆)。
「更に問題なのは防衛装備庁ではそのような運用構想、そして基礎研究を殆どしていません。装備庁の開発予算は殆ど技術実証と、装備化のための開発です。」
装備庁の出した次世代戦闘機の要素技術もお笑いでしたからね。最悪なのがどれもこれも航空機に実装した状態で試験をしたことがない。ましてやXF3とか戦闘機の技術検証機すら作って高機動状態での動作確認もしていない時点で絵に描いた餅と同じですよ。X2も含めてあれで現代に通用するステルス戦闘機が作れると思っているとしたらオメデタイを通り越しています。
軍ヲタなら千里の道も1歩からと言って擁護するでしょうけど本当に千里の第一歩である事を理解していない。目的地に着くのは何十年後の事やら。もう有人戦闘機が消えていますよ。
「F-2開発時に我が国の官民がどの程度のレベルだったか分かる話があります。」
酷い話ですね。F3の時はもっと酷い話が出ても驚かないでしょう。
まあ、日本のやることなすこと全てとりあえず否定する方々に何言っても無駄でしょうから、いちいち突っ込みはしませんが。
めんどくさいし。
ちなみに、A2/AD環境下での任務を行ったり、敵のステルス戦闘機などに対抗する以上はステルス性は必須の条件ですし、開発をBAEやレオナルドに丸投げしたわけでもありません。
更にグランドデザインが無いとかほざいてますが、大雑把なコンセプトならすでに発表済みですし、VVなどでも検討済みですよね。
あと、航空機につきものの初期不良程度のことをいまだにグチグチ取り上げてるし、ネタで書いてるんでしょうか?